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「あら、シューティーじゃない? 久しぶりね!」   入ってきたのはなぜか行く先々で良く出会うカベルネだった。シューティーと同時期に初めてのポケモンを受け取って旅立ったトレーナーである。そそっかしく暴走しがちな部分はあるものの、バトルに勢いがあってとっさの判断がなかなか鋭いとの評価は以前『ナビゲーター』が下したものだ。シューティーからしてみれば基本がなってない上に戦略的思考も不得手そうな彼女にバトルの才能があるとは思えなかったが。  カベルネは当然のようにシューティーの向かいに座り、クラブハウスサンドウィッチを注文した。シューティーが相席を許可した覚えは無いのだが、彼女には言うだけ無駄なのでシューティーもアイスティーを追加する。 「シューティー、あなたの『ナビゲーター』と話してもいいかしら? この前くれたアドバイス、なかなか役に立ったわ」  思わず唸り声が出た。僕の知らないところでどうして他のトレーナーにアドバイスなんかしているんだ、と問い詰めてやりたいところだが、本人がいないのではどうしようもない。  カベルネのどこか鼻高々といった報告に、何と答えるべきか逡巡して、結局シューティーは事実を打ち明けた。意外と長くなった話の間に、クラブハウスサンドウィッチが運ばれきてナイフとフォークで器用に解体されて、食べられていた 「じゃあ『ナビゲーター』がバックアップごとクラッシュしたってこと? そんなことありえるの?」  カベルネが怪訝そうな顔をする。「あったんだからあるんじゃないか」とシューティーはかなりなおざりな返答をして、氷が溶け出したアイスティーを口に含む。決して友好的ではないシューティーの態度に、しかしカベルネはくすりと笑う。 「気になるのね、『ナビゲーター』のこと」 「……はあ?」  一瞬むせかけて、それにより一拍遅れてから、取り繕うことすらできない反応が口から漏れた。 「『ナビゲーター』が言ってたのよね――シューティーは自分でちゃんとバトルのことを勉強して、それを実際に活かすだけの力があるって。自分にとってプラスになるものを見極めることができてるんだって」  カベルネはスプーンですくった大量のクリームを口に放り込み、席から立ち上がって鞄を肩にかけた。 「だからきっと、『ナビゲーター』のことが気になるのはあなたにとって必要だからなんじゃない?」  そう言うと、カベルネは「私これからジム戦なの、テイスティングはまた今度ね」と早口に告げて自分の分の会計を済ませ、店から出て行った。いつものことながらハリケーンのような忙しなさだ。  シューティーは短く溜息を吐いた。トレーナーをサポートする『ナビゲーター』のくせに、勝手なことをするし要らないことを言うし全然基本がなってないし、その上何も告げずにいなくなったのだ。放っておいたっていいのだけれど、文句の一つも言えないままではおさまりが付かない。 「……はぁ、ライモンジムは後回しかな」  ライモンシティまでは一日ほど、そこから地下鉄を乗り継げばホドモエシティに到着だ。出場ポケモンが一体のみの公式大会は、充分な休養のために試合は一日以上空けなければならない上、シニアトーナメントは調整のために比較的緩めの対戦スケジュールが組まれることが多い。  次は準決勝、三日後に行われる。
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