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 飾り気のない無骨な電子音が、覚醒に向かう意識を一気に引き上げる。枕元に置いておいた図鑑を引き寄せて、時間を確認すれば朝六時半、設定した時刻に寸分の狂いもない。  ぼんやりとした頭でそれを眺めていたシューティーは、久しぶりに堪能する静かな朝のまどろみに再び沈みかけ――はたと気が付いた。静かすぎる。シューティーが設定した時刻よりきっかり五分前の『朝だよー! 起きてシューティー!』に始まり天気予報にニュース、本日の運勢まで語り上げてやかましいことこの上ない『ナビゲーター』が、いつまで経っても現れない。がばりと起きて、ポケモン図鑑の画面を操作する。ヒウンシティの天気は快晴、トップニュースはホドモエシティで開かれているワールドトーナメントの記事で、今日の運勢は最下位らしい。基本設定から『ナビゲーター』を選択する。 『データがありません。新しく設定しますか?』  無味乾燥な機械音に、シューティーはまだ夢から醒めていないのかと益体もないことを考えた。
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 本当は、ニュースの配信が六時だから、もう少ししたらアラームの時間だった。 『実は朝が苦手なんだよなぁ……ちゃんと自力で起きられるかな』  いつぶりかの電子の海に身を泳がせて『ナビゲーター』は一人ごち、そんな自分に気付いて苦笑する。この頃はこの役回りがしっかり板についてしまって、ちょっと危ないところだった。『ナビゲータ』は『ナビゲーター』たるため、プログラムの最適化を続けていた。もう少し進んでいたら、もしかしたら何もかも上書きされて、忘れてしまっていたのかもしれない。  ぞっとした。  その時、キィーン……と余韻を伴う耳鳴りを感じて『ナビゲータ』は顔を歪ませた。周辺を探知する。サーバー巡回型アンチウイルスソフトウェアだ。監視の目は上手く潜り抜けたと思っていたが、どこかで引っ掛かってしまったらしい。 『まさかこんなのに先に見付かっちゃうとは、ね!』  物凄いスピードで追尾し、防御網を広げている。こんなところで、と『ナビゲーター』舌打ちしたい気分ですらあった。  呑み込まれる――認識した時には『ナビゲーター』はその存在の半分以上が壊れていた。メモリーが侵蝕され、プログラムは意味をなさなくなり、音声も、グラフィックも、ただ二つの数字の羅列に代わって溶けていく。 『……』  かすかな囁きだけ残して『それ』は消え去った。
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