幕間 『ナビゲーター』
 一人、瞼を開く。  目の前に広がるのは電子の海、膨張し続ける数字の羅列。漆黒の空間に、浮かび上がる大小さまざまな球体と、幾条もの光が飛び交って、まるで彗星のようだ。昔聞いたことがあるけれど、宇宙はもしかしたらこんな感じなのだろうか。  ある座標軸から放射状に伸びる光が整理され蓄積されていく。インフォメーションの自動更新機能は、常にオンになっているのだが、最近ではその中でもどれが有用でどれが不要か、なんとなく分かるようになってきた。アイドルのゴシップ記事は削除して、子どもたちが線路の上を歩いている、リメイク映画の宣伝用のショートムービーはとりあえず残しておく。ホドモエシティのワールドトーナメントの最新ニュースは詳細情報を追加取得する。ホドモエシティに至るまでにはバトルの聖地、ライモンシティもあるのだが、ジュニアカップの次期開催には間に合うだろうか。情報の中には現在開催中のシニアトーナメントの速報も載っていた。大会やバトル施設で一定の功績を挙げたトレーナーのみが参加できる大会で、まだ関係のない話だが……、まあいいかと主に個人的な興味から開いてみる。優秀だからそう遠くないうちに縁があるかもしれない。 『……え?』  思わず音声が漏れた。そして、目頭が熱くなった。胸を刺す鋭い痛み。  来てくれた。  そうと分かれば、行動を起こす決心はすぐに着いた。しかし、気がかりなことが一つだけある。それも、まあ仕方ないかと片付ける。  あらゆる干渉を遮断できる、安全な場所から一歩踏み出せば、張り巡らされた監視システムが、一斉に牙を剥く。  大丈夫、と心の中で呟けば、不思議とみんなの顔が浮かぶ。力が湧いて、本当に大丈夫な気がしてくる。
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