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ヒウンジムにおいても、シューティーは難なくジムバッジを手にした。昆虫の翅を模した翡翠と金のバッジをバッジケースにそっとはめ込む。
『おめでとう! 良いバトルだったね!』
いつものように能天気な笑顔で、『ナビゲーター』は言った。シューティーの横にいるジャノビーにも目を向けた。
『ジャノビーも苦手タイプだったのに、まだまだ体力が残ってるみたい。良く頑張ったね。でも念のためポケモンセンターで見てもらったほうがいいかな?』
『ナビゲーター』の指摘は的確だった。ジャノビーはトレーナーであるシューティーが驚くほどに急成長を見せていた。動きの素早さやしなやかさに磨きがかかり、技と技の連携はよりスムーズになったように感じる。
ここ最近、シューティーがジャノビーから目を離したのは不良に絡まれたあの時だけだ。電源が切れていた筈の『ナビゲーター』は緊急モードでスイッチを入れ、ジャノビーのバトルを見守っていたというが……。
訝しむような視線をつい投げ掛けてしまっていたのか『ナビゲーター』が首を傾げた。
『どうしたの? シューティー』
いや、と曖昧に言葉を濁す。疑惑を伝えるのは躊躇われた。この前も、口論になったばかりだ。
「謝らなきゃいけないと思って」
ごまかすためにとっさに出た言葉は、自分でも思ってもみなかったものだった。シューティーの言葉に、焦げ茶を溶かし込んだ瞳が丸く見開かれる。
シューティーは、今、はっきりと理解した。全てを見透かすような澄んだ瞳、鮮烈な意思と生命を感じさせる光を宿すそれと、まっすぐ向き合うことに畏怖すら覚える。
「その、君の言うことにも、一理あると思う。……全然、基本じゃないけど」
さらに口を付いて出る声を一拍遅れて認識して、ああ確かに自分はこれが伝えたかったのだと納得する。シューティーの言葉にぽかんとしていた『ナビゲーター』は、ジャノビーに縋るような視線を向けた。ジャノビーがこくりと頷くと『ナビゲーター』は感極まったように首を横に振る。おい待てなぜそこがそんなに仲良さそうなんだジャノビーのトレーナーは僕で『ナビゲーター』の登録ユーザーも僕だぞ。
『シューティー、成長したんだね……!』
「…………は?」
目元を拭うようなしぐさまで付けて『ナビゲーター』は芝居がかった口調で言う。
『カノコタウンを出てからここまで、私の言うことなんか聞いてくれたことなかったのに……!』
「君はカノコタウンを出てからここまで言いたい放題だっただろ!」
『そう? でもほら、『ナビゲーター』はあなたの第二のパートナー! シューティーを思ってのことだよ』
「ポケモン図鑑の機能を勝手に全停止する『ナビゲーター』がどこにいるんだ!」
『ほらここに!』
胸を張って言う『ナビゲーター』にもはやシューティーは言い返す気力さえ起きない。溜息を吐いて見せるだけにして――まあ、確かに『ナビゲーター』と気まずいといろいろとやりにくいのだから仕方ない。自分に言い訳するように、シューティーは納得した。